田舎で育った将太にとって、年上の幼馴染・千里は特別な存在だった。
夏休みにはいつも一緒に蝉を追いかけ、笑い合い、水辺でじゃれ合った。
あの頃の将太は、そんな日々がずっと続くものだと思っていた。
しかし三年後、千里は地元の有力者と結婚する。
将太にできたのは、白無垢姿の彼女を遠くから見送ることだけだった。
そして十年以上の時が流れる――。
東京で暮らす将太は、帰省の折に老舗温泉旅館・夕緑庵を訪れる。
そこで彼を出迎えたのは、かつての‘ちさねーちゃん’――女将となった千里だった。
三児の母となり、女将としての落ち着きと艶を纏った千里。
昔の面影を残したまま、大人の色気を増した彼女の姿に、将太の胸は静かに揺れ始める。
夜、二人は酒を交わしながら、昔話と近況報告に花を咲かせる。
変わらない笑顔。変わってしまった距離。
そして将太は、胸の奥に残っていた想いが、幼い憧れではなく恋だったことを悟る。






