ゴムの用意……何か、施術のための器具だろうか? それとも、コンドーム? まさか、そんなはずはない……。鼻歌交じりで準備を続けるさゆり。正直楽しそうに感じる。さっきのは聞き間違いだろうか? 髪を留めるゴム? 俺は、すっかりとパニックに近い感覚に陥ってしまっている。
そして、インターホンみたいなものが鳴る音が響き、
「はい、お願いします」
と、さゆりの声もする。ほどなくして、ドアがノックされた。
「こんにちは。大橋さん、今日もありがとうございます!」
元気いっぱいのさゆりの声。声だけ聞いていると、30代どころか20代の女の子みたいに聞こえてしまう。
「よろしくね、元気だった?」
軽いノリの声。さっきの男性よりは若そうだが、若者という口ぶりでもない。
「元気です! って、4日前に会ったばっかりじゃないですか」
「4日も会えなかったんだから、久しぶりだよ。会いたかったよ」
調子の良い彼。さゆりも、
「私もです。会いたかったです」
と、答えた。そのやりとりに、お客とマッサージ師以上のものを感じてしまう。でも、接客なんてこんなものだと思う。言葉に深い意味はないはずだ。それでもさゆりが、他の男に対して媚びているような態度を取っているのはツラすぎる……。
「じゃあ、さっとシャワー浴びてくるよ」
「浴びなくても良いですよ。時間もったいないから」
「え、でも少し汗かいてるし」
「平気です。大橋さんなら全然イヤじゃないです」
「惚れちゃうよ。そんなこと言うと」
「え? まだ惚れてないんですか? おかしいなぁ?」
さゆりは、想像以上に接客スキルが高いみたいだ。でも、それは俺の心を暗くする……。
「じゃあ、脱いでください。あっ、脱がせちゃうね」
さゆりは、馴れ馴れしい感じになってきている。言葉遣いも、まるで友達ノリだ。
「じゃあ、俺も脱がせちゃう」
大橋は、悪ノリしている。でも、さゆりはなにも言わない。そのやりとりに、戸惑ってしまう……すると、
「あれ、なにその下着。スケスケだよ」
「フフ、大橋さんが来るって聞いたから、慌てて着替えたんだよ。どう? 興奮しちゃう?」
「しちゃうしちゃう。ほら、もうこんなに」
「はみ出てる」
吹き出すように笑うさゆり。俺は、状況が理解できていない。脱いでいる? さゆりが? スケスケのランジェリー? 何かの間違いだと思いたい。
「そりゃ、さゆりちゃんのおっぱい見たら誰でもこうなるよね」
「フフ、セクハラですよ」
「そんなエロい格好してるくせに、セクハラ?」
「エッチ」
楽しそうな会話が続いているが、俺は地獄に落とされているような気持ちだ。
「いやいや、勃起させるのはマナーだからね」
おどけたように言う彼。
「大橋さん、紳士ですもんね。じゃあ、うつ伏せ……は、省略しちゃいます?」
「うん。省略で」
もう、悪い予感しかしない。少なくても、密室でさゆりは卑猥な姿になっている。その上で、男性と二人きり……なにも起こらないはずはないと思ってしまう。
「じゃあ、始めます。痛かったら言って下さいね」
さゆりの声が響く。そして、施術が始まったようだ。
「あぁ、気持ちいい。さゆりちゃん、ますます上手になったね」
「ありがとうございます。大橋さんが色々教えてくれたおかげです」
大橋は、かなりの常連なのだと思う。いったい、どんなマッサージをしているのだろう? さゆりは、卑猥なランジェリーを身につけたままなのだろうか? まさか、さゆりがこんな事までしているとは思っていなかった。
「フフ、カチカチですね。乳首、気持ちいいですか?」
「あぁ、気持ちいい……本当に気持ちいいよ」
「もっと気持ち良くなってくださいね」
「あっ、うぅっ、ヤバい……」
大橋は、本当に気持ちよさそうだ。ますます映像を見たいと思ってしまう。
「もっと凝っちゃってますね。ほぐすつもりなのに、コリコリ」
楽しそうなさゆり。さゆりがツラい思いをしていると思っていた。でも、音声で聞く限り、さゆりは楽しそうですらある。もちろん、無理して接客しているだけだと思う。ただ、どう考えてもやり過ぎな接客だ。
「もっとコリコリにしてくれて良いから」
楽しそうな大橋。声が弾んでいる。
「じゃあ、舐めますね」
「うぅっ、あぁ、気持ちいい」
舐める? 舐めている? マッサージとは言えない事をしている?
しばらく大橋の気持ちよさそうな声が響く。さゆりは、無言で施術を続けているようだ。風俗まがいのことまでしないと、常連は出来ないのだろうか? リピートをしてもらうために、こんな事までしているのだろうか?
「フフ、爆発しちゃいそう。こっちもカチカチですね。凝ってますか?」
さゆりの声に、妖艶な響きが加わる。
「凝ってるよ。ガチガチに凝ってる。ほぐしてくれる?」
「はい。じゃあ、ゴム付けますね」
「ありがとう」
まさか、このままセックスをしてしまう? 止めなければ……そんな焦りでいっぱいだ。
「フフ、本当に固い……元気ですね」
「いつもはこんなに固くなることないよ。もう、歳だしね」
「ここだけは、20代みたいですよ」
「さゆりちゃんが相手だからね」
まさか、本当にセックスするつもりだろうか?
「じゃあ、舐めますね。我慢しなくて良いですから、いつでも出してくださいね」
「ヤバい……もう出そうだよ」
「フフ、まだダメですよ」
そんな会話が続く。気持ちよさそうな大橋だが、さゆりの声は変わっていない。少なくても、まだセックスをしているわけではないようだ。
「うぅ、それ気持ちいいよ。もっと深く」
聞こえてくるのは大橋の声ばかりだ。さゆりがなにをしているのか、まったくわからない。大橋の声が響く。気持ちよさそうにうめき、時折さゆりに声をかける。それでもさゆりの声は聞こえてこない。
「あぁ、気持ちいい。もっと吸って」
余裕のなくなってきている彼の声。吸ってと言う言葉に、つい反応してしまう。この前のフェラチオ……さゆりは一瞬バキュームをしてきた。普段しているから、ついしてしまったのだろうか?
「出る。さゆりちゃん、出るっ」
大橋の切羽詰まった声が響く。そして、少しすると、さゆりの声がやっと聞こえてきた。
「気持ち良かったですか? フフ、いっぱい出てる。外しますね」
「あぁ、気持ち良かったよ。最高に気持ち良かった」
「良かった……。でも、ナイショですよ。こんなのバレたら、クビになっちゃう」
「もちろんだよ。わかってる。本当にありがとう」
そんな会話が続く。さゆりの特別サービスのようだ……。コンドームをつけてのフェラチオ? 思っていた最悪の状況ではなかった。でも、限りなく最悪には近い。俺は、今さら自分が異常なほどに勃起していることに気がついた。今にも射精してしまいそうなほどだ。
なにに興奮しているのだろう? 尋常ではないくらいに勃起していることに戸惑ってしまう。
「じゃあ、またね」
「はい、待ってます。また、来週ですか?」
楽しそうに言うさゆり。
「うん。もちろん」
そして、長い施術が終わった。その後も、さゆりはひっきりなしにお客さんにマッサージを続けた。今のところ、全員がリピーターだ。かなり人気があることは理解できた。この6ヶ月で、しっかりと地盤が出来ているようだ。それに引き替え、俺はなにもない。職もないし、身体も不自由だ。申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
そして、さゆりは帰る時間になった。俺は、無為に時間を過ごしてしまった。さゆりが苦労してお金を稼いでいるのに、俺はただ家にいてさゆりのことを探ってしまっている。さゆりがしていることはどう考えてもやり過ぎだが、稼ぐためにやむなくやっていることだ。俺のせいだ……それなのに、俺は興奮すらしている。最低だ……。
「ただいま。お腹空いてる? ハンバーガー買ってきたよ」
さゆりは、ご機嫌で帰ってきた。今日の夕ご飯はバーガーのようだ。俺が好きなものを買ってきてくれている……こんな俺に、愛情を忘れない彼女。色々な感情がこみ上げてくる。
「美味しい? ゴメンね、明日は作るね」
さゆりは、夕ご飯を作れないことを謝ってくる。そんな子とは、謝ることではない。そもそも、俺が作るべきだと思う。
「良いよ、そんなの。パパが作ったら凄いことになりそうだもん」
笑いながら言うさゆり。確かに、俺は料理なんてしたこともない。酷いものしか作れないと思う……。凄く楽しそうなさゆり、今日はほとんど働きっぱなしだったはずだ。申し訳ない気持ちが膨らむ。でも、あんなことをしていた……そう思うと、裏切られたような気持ちも湧いてしまう。
止めるべきなんだと思う。いくら稼ぐためとは言え、やり過ぎだ。でも、月に70万も80万も稼いでいると思うと、本当に止めて良いのか逡巡してしまう。
仕事は大変? と聞くと、
「そんなことないよ。最近、体力もついてきたから。最初は疲れちゃって大変だったけど、今はそうでもないかな?」
と、明るく言う彼女。無理しているなと思ってしまう。変なお客さんとかはいない? と聞くと、
「ほとんどいないよ。今は、常連の人ばっかりだから。でも、たまにエッチなお店と勘違いしてるような人も来るかな……すぐにお店の人呼ぶから大丈夫だけど」
と、答える彼女。大橋さんとは、どうしてあんなことになっているのだろう? 盗み聞きしていた中では、他に特別料金を払っているような会話もなかったはずだ。あれだけ忙しく働けているさゆりが、他のお客にはしない特別なサービスをしている理由が見えない。
そして、就寝時間、さゆりがはにかむようになりながら、
「身体、平気? ダメかな?」
と、誘ってきた。俺は、さゆりは疲れてないの? と、気遣った。
「大丈夫。……したいの。パパ、愛してる」
と、キスをしてくれる。舌が絡みつき、一気に興奮が高まっていく。でも、この口で性的なサービスをしていたと思うと、複雑な気持ちも湧く。それでも夢中で舌を絡ませていると、さゆりの手が股間に伸びてきた。荒い息遣いのまま、ズボンごとまさぐってくる彼女。すでに気持ちいい。さっきの興奮がまだ残っているのか、射精感もいきなり高くなっている。
「固い……凄く固いよ。興奮してる? 舐めるね」
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