私が以前付き合っていたカオルという女性は、23歳という若さでがんに侵されてしまいました。
付き合いだした頃に、もともと食が細い上に、酒が好きでよく飲んでいて、みるみるやせていったのです。
不健康と感じたし、尋常じゃないやせ方で、居酒屋の店員をしていたカオルは、仕事中に倒れてしまったのです。
医者に診てもらったところ、大きな病院で精密検査を受けたほうがいいとの事で、入院すると、癌で手の施しようが無いとの宣告を受けました。
私は打ちのめされました。
カオルは小さい頃に、両親が離婚するというのに、どちらにも引き取ってもらえず、悪く言えば捨てられたのです。
不幸な境遇ですが、施設で生き抜き、居酒屋で働き始めた頃に私と知り合いました。
性格は明るく、思いやりがあって、私は飲食業をやっていて、独立したい考えがあって、できれば一緒に店を出そうかという話もしていました。
カオルとはまだ肉体関係は無く、キスくらいだけの関係でした。
彼女本人には、宣告してないけれど、彼女も重い病気というのは、察したようで、
「ケンチャン(私)、こんな大きな病院でお金かかるんでしょ。
ケンちゃんにこれ以上借りられないよ。
私の施設の知り合いに頼んで紹介してもらえば大丈夫だから。迷惑かけらんないよ。」
「いいんだって。気にすんなよ。
俺、リーマン時代に、結構お金ためてたから、独立の資金で。
すぐに店なんて出さなくていいからさ、カオルは元気になることだけ考えてろよ。」
「本当にいいの?」
「当たり前だって。俺、カオルの彼氏ってだけでなくてさ、親だと思ってくれよ。
こんな親も変だけれどさ、な。」
「ありがとう・・・」
カオルとキスをする。
キスの味が、薬の味がするのが、切なく、これからの多難を予感させた。
カオルの病状は若いから、どんどん進行し始め、歩くのも手助けが必要なくらいだった。
医者に聞くと、
『そろそろ覚悟が必要です。今比較的、何とか落ち着いてますから、近場でよかったらどこか温泉でも行かれては・・・』
外泊の許可をもらい、私達は湘南へ車で出かけた。
カオルは張り切って、おにぎりと弁当を作ってはしゃいでいた。
私はグッとこみ上げる涙をこらえて車を走らせた。
「やっぱり、海っていいよね。見てると、嫌なこと、大変なこと、全部忘れてしまうね。
ケンチャンも今まで付き合ってくれて、嬉しかった。ありがとうね。」
横顔を見るとやせた顔で、生気が無いが、満足げな、穏やかな顔だった。
私は涙をこらえず、流した。
「なに、ケンチャン泣かないでよ。
ケンチャン私を受け止めてくれて、感謝の気持ちしかないんだからね。そろそろご飯食べる?」
海で夕暮れまで遊び、ホテルに行った私達は、夕食が用意され、止められている酒をカオルに呑ませた。
おいしそうに舐めるように呑んでいた。
夜景を見て一心地ついていると、
「ひとつお願いがあるの。今までケンチャン我慢してくれたのか、わかんないけど、抱いてほしいの。
もうできるの最後かもしれないから。
恥ずかしいんだけれど、ケンチャンを私にきざみつけてから逝きたいの。」
「なに言ってんだよ。今死ぬみたいなこと言うなよ。
元気になったら、いくらだってやってやるよ。」
「なんとなく、判るの。今日が・・・最後・・・お願い!!」
切実な目で見つめるカオルに私は折れた。
浴衣を脱ぐとやせた体が、目につくが、気にせず愛撫した。
いくら末期の、癌患者を目の前にしても、セックスし始めれば、男である。
しっかりと勃起した私は、優しく、そして時に力強くカオルの体を抱いた。
だんだんと赤みを帯びてきて、しっとりと汗ばんできて、
「いいっ、ケンチャン、あっあっ、すてき・・・ありがとう・・・泣かないで・・・」
私は泣きながら、セックスしていたのだ。
絶頂を迎えた私は、全部中へ放出した。
ま〇こから大量の精子が流れ出た。
おそらく最初で最後のセックスだ。
そうそう奇跡は起こるものでもない。
カオルを抱きしめた。
それから、半月もしないうちにカオルは、私が、仕事中にあっさりと逝った。
「なにも、両親から見捨てられたからって、1人で逝くことないだろ。」
私は激しく嗚咽した。
病院のスタッフが、カオルの手紙を預かっているというので、開くと、
『ケンチャンに、面と向かって言えないので、手紙を書きますね。
今まで本当にありがとう。
私は両親を恨みましたが、ケンチャンと出会ってから、やさしく、ひょうきんで忘れることができて、どんなに嬉しかったことか・・・。
最後に私のガリガリの体も無理言って・・・
ケンチャンとのエッチすてきでした。
ケンチャン最近泣いてばかりいたけれど、私のために悲しまないでね。
彼女作って、幸せになってね。
最後にひとつお願いなんですけど、私をあの楽しかった、湘南の海に散骨してもらえるでしょうか。お願いします。
あの日は楽しかった。
ありがとう、ケンチャン。』
私は言う通りに、ひとかけらの骨を貰い、残りは湘南の海に散骨した。
その夜、金縛りにあい、私はカオルだ!と直感し、胸の中で、
「カオル、俺の方こそありがとう。
よくがんばった。・・・
よく戦った。・・・
ゆっくり休んでくれ。
いつか俺もそっちに行くまでお別れだ。
元気でな。」
と念じると、フッと体が軽くなり、温かい涙が流れた。
すがすがしい気分で、再生できた。