僕は、はっきりと聞いてしまった。確かに杏奈は、研二の名前を呼びながらオナニーをしていた。僕とセックスをした直後なのに、こっそりとそんなことをしていた杏奈……。僕は、想像以上に状況が悪くなってきているんだなと感じた。
次の日の夕方、そろそろ仕事も終わりかけの頃、研二からメッセージが来た。今日も、いつものモールで食事をしたらしい。そして今回は、写真が添付されていた。それは、プリクラの写真だった。
今時のプリクラらしく、少し不自然に感じるような修正がしてあり、妙に目が大きくて肌が白い。でも、二人とも本当に楽しそうに笑っている。
僕は、心拍数が急激に上がるのを感じながら、彼に電話をした。
「プリクラ見た? やっぱり嫁さん可愛いな」
研二は、そんなことを言ってくる。僕は、褒められて嬉しい気持ちもありながら、複雑な気持ちになってしまう。
「今度、モールじゃないところで飯食べようってなったけど、どうする? やめるなら今だと思うけど」
研二は、そんな風に言う。結構、心配しているような口調だ。僕は、どうしてそんなことを聞いてくるのかと質問した。
「多分、飯食ってそのままホテルとか行けそうだからさ。嫁さん、結構俺のこと好きになってると思うぞ」
研二は、そんな風に答える。杏奈が自分に好意を持っていることに対して、自信があるというか、確信を持っているような口ぶりだ。
僕は、そんなに簡単にはいかないと思うと告げた。
「じゃあ、飯食いに行っても良いの?」
研二は、再確認というような口調だ。僕は、多少ムキになっていたのか、即答でかまわないと答えた。
「了解。じゃあ、また報告するな!」
研二は、自信たっぷりに言って電話を切った。
僕は、想像以上のスピードで進んでいく事に戸惑っていた。研二が女性に対して凄腕なのは、やっぱり本当だったんだ……。そんな風に思いながら、後悔の気持ちもわいていた。でも、どうしても興奮してしまう自分がいる。
研二と食事に行き、その流れでホテルに行く……。それは、本当にそうなるのかもしれない。僕は、とめないといけないという気持ちもわいてくる。でも、僕がしたことは、研二に隠し撮りを忘れずにしてくれというメッセージを送ることだった……。
そして、数日後に研二からメッセージが来た。明日、ちゃんとしたレストランで食事をすることになったという内容だった。僕は、一気に心拍数が上がる感じになる。でも、同時に激しく勃起してしまっている。
僕は、不安と期待が入り交じるような気持ちのまま仕事を続け、少し早めに帰宅した。
『おかえりなさ~い』
杏奈は、いつも通りの元気いっぱいの挨拶をしてくれる。僕は、ただいまと言いながら靴を脱ぐ。振り返ると、杏奈がいた。杏奈は、肩甲骨くらいまであったつややかな髪を、驚くほど短くしていた。ベリーショートというのだろうか? 中谷美紀みたいな印象になっていた。驚く僕に、
『どうかな? 変じゃない? 今までで、一番短くしちゃった』
と、不安そうな顔で聞いてくる。僕は、驚きはしたが、ハーフにも見えるくらいに派手で綺麗な顔立ちの杏奈には、とても似合ってると思った。それをそのまま言うと、
『良かった……。最近暑いから、バッサリ切っちゃったの。あっ君が気に入らなかったらどうしよう? って、後から思ったの』
と、安心したように言う杏奈。僕は、短い髪の杏奈も綺麗だなと思いながら、着替えを始める。部屋着に着替え終わる頃、急に思い出した。研二と付き合ったりした女性は、みんなショートカットだった……。
もしかしたら、研二の好みに合わせるために、バッサリと切ってしまったのだろうか? 僕は、不安で心臓がドキドキしてしまう。でも、より一層勃起してしまっていた。
僕は、髪が短い杏奈を見ながら、色々な想像をしてしまっている。研二のことを、本当に好きになっているのではないか? そんな心配で、落ち着かない気持ちだ。
『明日は、遅くなっちゃうの? 久しぶりに、どこか食べに行かない?』
今日の杏奈は、とても良くしゃべる。僕は、少し遅くなると言った。あまり早く帰ると言ってしまうと、予定を変更するかもしれないと思ったからだ。
『じゃあ、帰る前に電話してね。すぐ出かけられるように準備してるね』
杏奈は、楽しそうに言う。なにも知らなければ、本当に僕との食事デートを楽しみにしているんだなとしか思えないような態度だ。
僕は、ふと思ってしまった。電話をしろというのは、ギリギリまで研二とデートをするためなのではないか? そんな邪推をしてしまう。
その夜、杏奈はセックスのお誘いをしてこなかった。いつもの感じなら、確実にお誘いが来そうな雰囲気だったのに、気配もない。それどころか、今日は一度もキスをしていないことに気が付いた。
僕は、なかなか眠れずに色々と考え込んでしまった。でも、杏奈はすぐに規則正しい寝息を立て始める。僕は、寝ている杏奈の顔を見つめ続けた。ノーメイクで寝ている顔なのに本当に綺麗だと思う。ノーブラなので胸が変な形に潰れているが、大きさは際立っている。こんなにもイイ女が、どうして僕なんかと一緒にいるだろう? あらためてそんなことを考えてしまう。
そして、次の朝、杏奈は前夜とは違って少しテンションが低い感じだった。ボーッとしているというか、僕が話しかけると慌てて返事をするという感じだ。
『今日は、遅くなっちゃうの?』
思い詰めたような顔で再確認してくる杏奈。僕は、もしかしたらここが運命の分岐点になるのではないか? と、思いながらも、
「ゴメンね、遅くなると思う。でも、そこまで遅くならないから、予定通りご飯食べに行こうね」
と、言った。
『うん。楽しみにしてるね!』
杏奈は、やっと良い笑顔になってくれた。そして、いつものようにキスをして僕は家を出た。
まるで仕事が手につかない。今頃、二人は何をしているのだろう? そんな心配で、苦しいくらいだ。
昼過ぎ、研二からメッセージが届いた。文章はなく、写真が一枚だけだ。モンスーンカフェとかみたいな、カジュアルだけど少しお洒落っぽい感じの店の中での一枚だ。
生春巻きを箸で持ち上げた杏奈が、満面の笑みで映っている。完全に、デートを楽しんでいる女の子の表情だ……。僕は、なにか取り返しのつかないことをしてしまったような気持ちになってしまった。
僕だけに注がれるはずの笑顔……。他の男に注がれてしまっている。僕は、泣きそうな気持ちのまま仕事を続けた。2時間後、メッセージが届いた。また写真のみだ。でも、その写真は僕の心臓を止めそうなほどの衝撃を与えてきた。
ソファがあり、その前にテーブル。テーブルの上には、見覚えのあるカバンが乗っている。杏奈のものだ。お気に入りのカバンで、めったに持ち歩かないヤツだ。
写真には、杏奈は写っていない。でも、写真の端っこにはガラス張りの部分があり、浴室らしきものが透けて見えている。どう見ても、ラブホテルの造りだ……。
杏奈が、研二と一緒にラブホテルにいる。僕は、まさかと思った。こうなることを望んでいたのに、いざ本当にこの状況になったのを目の当たりにした僕は、立ちくらみがして椅子に深くもたれてしまった。力が入らない……。
でも、メッセージはその写真一枚で、何の情報も無い。僕は、ありとあらゆる想像をしてしまった。キスする二人……。抱き合う二人……。研二のペニスをくわえる杏奈……。考えれば考えるほど、想像すれば想像するほど、イヤなイメージでいっぱいになる。
すると、電話が鳴った。研二からだ。僕は、もう終わった? やっぱり、なにもなかった? と、思いながら通話状態にする。でも、声が聞こえない。僕は、もしもし? と、声をかけようとした。でも、かすかに話し声が聞こえてくることに気が付き、慌てて受話音量を最大にした。
『お待たせ……。ゴメンね、時間かかっちゃった』
杏奈の声が聞こえる。どことなく、元気がない声だ。
「全然待ってないよ! じゃあ、俺も浴びてくる」
研二の元気な声が響く。
『う、うん』
杏奈の声がする。戸惑っているような感じもする。
多分、研二は通話状態にしてスマホをどこかに置いているのだと思う。もちろん、僕に聞かせるために。僕は、まさかの状況に驚きながらも耳が離せない。でも、社内でこの状態は怪しすぎると気が付く。僕は、Bluetoothのイヤホンを耳にハメてスイッチを入れる。すぐに切り替わり、イヤホンから聞こえ始める。僕は、スマホをポケットに入れてデスクを離れた。
そして、なにか聞こえてこないかと集中しながら、社外に出る。そのまま近くの公園のベンチに移動をして座った。ただ、移動の間中、音は聞こえてこなかった。杏奈は、黙って待っているような感じみたいだ。
ラブホテルで、シャワーを浴びる男女……。どう考えても、セックス直前という感じがする。ということは、すでにキスはしたのだろうか? 流れで考えると、すでにキスをして抱き合ったりはしているはずだ。
僕は、嫉妬で息が詰まりそうになる。でも、自分でも信じられないほどの興奮を感じてしまい、勃起してしまっている。普通の勃起ではなく、射精するんじゃないか? と、思うほどの激しい勃起だ。
周りでは、散歩する人、幼い子供と遊ぶママさんなどがいる。そんな中でイキそうなほど勃起している僕は、どう考えても変態だと思う。
「お待たせ~」
研二の妙に明るい声が響く。
『ま、待ってないです』
杏奈は、言葉がたどたどしい。
「横座るよ」
研二は、滑らかに話を続ける。
『は、はい』
杏奈は、本当に緊張しているような感じだ。
「本当に、可愛いね。こんな風に一緒にいられるなんて、夢みたいだよ」
研二は、そんなセリフを言う。板についているというか、言い慣れた感じだ。
『……私も……嬉しいです』
杏奈がそんな風に答えた後、
『うぅっ!』
と、うめき声みたいな声がした。そして、音がしなくなる……。僕は、どうなってる? 何をしてる? そんな気持ちでついスマホの画面を見る。でも、当然なにも映っていない……。
「唇、柔らかいね」
研二の声がする。僕は、キスをしてしまったのだろうか? と、激しく動揺してしまう。でも、動揺以上に激しい興奮も感じてしまっている。こんな真っ昼間の公園で、激しい勃起を続ける僕。警察を呼ばれても仕方ないような状況だ。
『……キス、すごいです……。上手なんですね』
杏奈は、たどたどしい言葉で言う。緊張しているのが伝わってくるような声だ。
「そんなことないよ。必死なだけだよ。杏奈ちゃんとキス出来るなんて、めったにない大チャンスだから」
研二は、そんな風に言う。でも、杏奈の返事はない。また、イヤな沈黙が続く。他の男とキスをしている杏奈……。こうなって欲しいとは思っていたが、まさかこんなに早く、こんなにあっさりとこの状況になるなんて、夢にも思っていなかった。
『あぁ、ダメぇ、恥ずかしいです』
杏奈の、困惑した声が聞こえる。
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